(3)想定外への備え、救助と応急手当に関する準備
大地震に備える
地震対策を極めても生じる「想定外」への備え
平時も非常時も、負傷者や要救助者が発生した際には「119番」通報を行います。しかし広い範囲で被害の生じる災害時には、消防車や救急車もすぐに駆けつけることはできません。このような状況において、自分と家族による自助、およびマンション内における共助で、救助活動や応急手当などを行うための準備が必要となります。
大地震の直撃を受けた際、建物が無事で、室内もメチャクチャな状況になっていなければ、地震の揺れによる被害を大きく軽減できます。しかし、それでも被害を完全に無くすことはできず、「想定外」への備えが必要となります。最低限の準備を行うことが重要です。
ここでは、大地震で生じる想定外の被害への備えとして、家庭内・マンション内における「人命救助」と「応急手当」に対する準備のポイントを紹介します。
「救助用品」を準備する
まずは救助に使う道具の準備です。新耐震基準のマンションが、大地震でバラバラに倒壊する可能性は低いですが、室内対策が不十分な場合は各家庭において被害が発生します。例えば背の高い家具が転倒して人が押しつぶされたり、あるいはドアや通路をふさいで身動きが取れなくなったりという状況が想定されます。
このような状況に対しては、身動きが取れなくなった人を救助したり、ドアや通路を確保したりするために、道具を使った救助活動を行うことが求められます。そしてこの時には、できるだけ素早い行動を取ることが重要なのですが、これには2つの理由があります。
ひとつは津波や地震火災など、すばやく逃げることで命を守る状況への対処です。大地震の状況によっては、文字通り1分1秒を争って避難をしなければならないこともあり得ますが、こうした場合に身動きの取れない人を素早く助け出し、避難ができる状態にするための準備が必要となります。
もうひとつは「クラッシュシンドローム」への対応です。建物や家具などに身体の一部を挟まれた状態が数時間以上継続すると、体内にカリウムなどの毒素が生成され、救助時にこれが全身を巡り命に係わることがあります。医療支援なしで対処するためには、2時間以内に圧迫を解消する必要があるため、素早い救助が必要となるのです。
家庭あるいはマンションで準備する救助用品の例です。どのような状況でも必要となるバール・ジャッキ・ノコギリなどに加え、作業用のLEDライトとグローブが必要です。また、マンションなどで備蓄をする場合には、重量物をバールやジャッキで持ち上げた隙間に差し込む「あて木」や「角材」なども用意します。
ただし、いずれも正しい使い方を学んでおかなければ100%有効活用することができません。自治体やマンションなどで行う防災訓練で、こうした道具の使い方を学んだり、重量物除去訓練などを実施してスキルを学ぶことも重要です。これらの訓練は、地域の自治体や消防に依頼をすることで指導を仰げる場合があります。マンションの防災訓練で指導を受けられないか、自治体または所轄の消防へ問い合わせてみてください。
「応急手当セット」を準備する
続いて、応急手当に使用する道具を準備します。大規模災害で大量の負傷者が発生すると、医療機関に多くの人が詰めかけてパンク状態となります。そのため自治体により、地域の病院やクリニックを統合したり、治療者に優先順位付けをしたりして、医療資源を効率的に活用するための計画が定められています。
家庭において問題になるのは「トリアージ」と呼ばれる活動です。トリアージは「軽傷者は後まわしにし、治療しないと助からない人を優先する」考え方で、「もう助からない」人や「軽症」の人は、治療を受けられない可能性があります。
この場合の「軽症」には、骨折や、体表の10%程度の火傷など、普段なら重傷扱いされる症状も含まれ、これらに対する応急手当の準備を、家庭内で行う必要があるのです。
家庭で準備をする応急手当用品の例です。大地震などで生じやすいケガへの備えとして、ばんそうこう、キズパット、三角巾、包帯、テープ、消毒薬、マルチツールなどを入れておきます。また、持病や慢性疾患などがある場合は、1週間分程度の薬も常時確保できるようにすると安心です。
「AED」は置かれている場所を把握する
近年街中への設置が進んでいるのが、AED(自動体外式除細動器)です。何かしらの原因で心停止した心臓に、電気ショックを与えて正常な状態に戻すための医療機器で、医療従事者ではない一般市民でも使用できる器具です。
重要な器具ではありますが、救助用品や応急手当セットのように、家庭単位で準備をするのは費用の面で難があります。マンションのエントランスなどに設置をすることを検討するか、「AEDの置かれている場所」を知っておくことで対処するとよいでしょう。駅、公共施設、学校、コンビニなどに設置されていることが多くあります。
AEDは、電源を入れれば音声ガイダンスが流れ、操作方法やすべきことを教えてくれます。そもそもAEDが必要かどうかも、AED自体が判断してくれるので便利です。とはいえ、応急手当も同様ですが一度も使ったことがなければ、正しい利用は困難です。道具の準備と合わせて、機会があれば使用する体験をすることも重要です。
終わりに
救助用品や応急手当セットは、家庭単位で準備するとよい道具ですが、マンションとして準備してもよい道具です。また、マンションで行う防災訓練では、ぜひ最寄りの消防などに依頼をして、救助訓練や、応急手当・AEDの使い方を学ぶ普通救命講習などを受講できるようにするとより安心です。
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